ALE & BOOKS & CIDER 2024|古本泡山
読書に合うのは、どんなビールだろう?
国立の書店主たちに、くにぶるのビール「それでも町は廻っている」と本をペアリングするなら、というテーマで本を選書してもらいました!
国立・国分寺を中心にイベント出店で活動する古本屋「古本泡山」さんからの一冊を紹介します。
ALE & BOOKS & CIDER 2024
https://kunitachibrewery.com/ale-books-cider-2024/
稲垣足穂『一千一秒物語』 新潮文庫 1923年
月に投げ飛ばされたり、星でパンをこしらえたり、ポケットの中に月が入っていたり、なんとも風変わりな小説がある。
およそ100年前に書かれた月や星をモチーフに独特の感覚で描かれる掌編集、稲垣足穂の「一千一秒物語」をわたしは繰り返し読んでいる。毎度新鮮な感嘆と深い安堵のため息とともに。まさに毎日飲んでいるビールのようなものだ。
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“はたしてビールびんの中に箒星がはいっていたか?”
「一千一秒物語」の中の一編のタイトルだ。
ビール瓶の中に箒星が入っていると言い張るひとに、本当かなあと疑いつつ見せてもらうことになり、そのひとは栓を開けてコップにビールを注ぎだす。ホーキぼしは?とたずねると、ホーキぼしはこれじゃないか、と言い張りビールを飲みだして、あっという間に空のビール瓶が一本残ったきりだった。という噺。
ビールを箒星だと言い張るひととそれを疑いつつもビールがなくなるまで見守るひと。なんとも秀逸なコントである。わたしは苦笑を湛えて、ビールを一口飲む。たまらない時間だ。
「一千一秒物語」の粒のようなちいさな噺の集合は炭酸を思わせるし、軽やかで不思議な余韻がのこる読後感は「それでも町は廻っている」というこのビールの味わいに通ずると思った。
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足穂はビールを愛した。著名人の夕食風景を紹介する雑誌のコーナーで、なんの料理もなくビールだけが並んだ食卓の写真が紹介された。
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「一千一秒物語」のタイトル群はとても魅惑的で、クラフトビールの銘柄に使えそうなものがたくさんある。
月から出た人、ポケットの中の月、月のサーカス、A TWILIGHT EPISODE、銀河からの手紙、真夜中の訪問者、月の客人、月夜のプロージット、土星が三つできた話、A MOONSHINE…。
足穂なら「それでも町は廻っている」というタイトルでどんな噺を書くだろうか。
古本泡山 スギタモエル @awa_yama
国立・国分寺を中心にイベント出店で活動する古本屋「古本泡山( @furuhonawayama )」をやっています。