ALE & BOOKS & CIDER 2024|企画 / ディレクター 井上麻衣

読書に合うのは、どんなビールだろう?
KUNITACHI BREWERY 企画 / ディレクター 井上麻衣の一冊を紹介します!
ALE & BOOKS & CIDER 2024
https://kunitachibrewery.com/ale-books-cider-2024/

スタジオ・オラファー・エリアソン『Studio Olafur Eliasson The Kitchen(スタジオ・オラファー・エリアソン キッチン)』 美術出版社 2016年

カルダモン、クミン、コリアンダー、カイエンペッパーをミルで挽く。

一晩水につけて戻したひよこ豆とたまねぎ、ニンニク、香草をミキサーでペーストにして、さっき挽いたスパイスと水、小麦粉、塩コショウを混ぜる。1時間ほどタネを休ませたらたっぷりの油できつね色になるまで揚げていく。

ここらでビールを注いで飲みながらどんどん揚げていく。つまみはもちろん揚げたてのファラフェル。

ドイツのベルリンにあるオラファーのスタジオは、巨大な元ビール醸造所。そこでは100名を超えるスタッフが日々アート活動を行っている。大規模なインスタレーションで高い評価を受けている現代美術作家のオラファーだが、この本はそんな彼のスタジオのキッチンでの記録。100のレシピと共に、食べること、生きること、自然の循環について、数多くの実験的アプローチについて書かれている。

ここ最近の私の興味関心は”食の身体性”について。

自らの手で種を植え、育てて収穫し、食べる。そしてまた土に返していく。実際に自分の体を使ってダイナミックに食べるという行為に介入していく。そうすることで自然の中の循環に自分がちゃんと存在しているということを感じられるようになる。ウジやミミズ、菌や微生物がどれだけ重要な役割を果たしているのかにも気づくようになる。この本に書かれている数々のプロジェクトも食べることについての哲学的な問いかけが行われている。

クラフトビールはそれが農産物だと思わせてくれる遊びと揺らぎがあるのがとても良い。菌のおかげ、微生物のおかげ。麦とホップの出来栄えやちょっとした配合の違いによっても味が揺らぎ同じものが2度はつくれない。作り手の身体性を近くに感じられて飲んでいて心地が良い。

そうして酔いが回ってきたら、細かいことは考えずこの本をぼーっと眺めてみる。美しい写真の数々は良質なアートブックとしての役割も果たしてくれるのだ。

井上 麻衣
KUNITACHI BREWERY 企画 / ディレクター

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