ALE & BOOKS & CIDER 2024|みちくさ書店
読書に合うのは、どんなビールだろう?
国立の書店主たちに、くにぶるのビール「それでも町は廻っている」と本をペアリングするなら、というテーマで本を選書してもらいました!
古書店歴24年、「みちくさ書店」の青木耕史さんの一冊を紹介します!
ALE & BOOKS & CIDER 2024
https://kunitachibrewery.com/ale-books-cider-2024/
石黒正数『それでも町は廻っている』 少年画報社 2005年-2016年
「ビールと本の読書感想文」の寄稿依頼をいただいた。クラフトビールの名称は『それでも町は廻っている』だという。なんと、そのうち読みたいなーと思ってた漫画作品のタイトルと同名じゃないか。「クラフトビールを味わいながらの読書感想文」ってことなら私にとって同名の漫画作品以外の選書はありえないだろう。
…というわけで、クラフトビール『それでも町は廻っている』(KUNITACHI BREWERY)を味わいつつ、漫画作品『それでも町は廻っている』(石黒正数著・少年画報社・全16巻)の読書感想文であります。
主人公の嵐山歩鳥(あらしやま ほとり)は高校生。近所のとある商店街を舞台に、高校の友人、町の大人たち、自分の家族(ペット含む)との平穏な日常が綴られている。
歩鳥は推理することと小説が好きで、卒業後の進路を考えるうちに探偵兼小説家になりたいという気持ちがだんだんと芽生えてくる。
連載作品で一話読み切り形式で物語は進行していく。何気ない日常生活の中に小さい謎解きが散りばめられていて、歩鳥がその些細な謎を解き明かし、時にはトラブルを解決していく。全16巻というボリュームもあって、登場人物たちが様々な角度から描かれており、人々の生活する町としてのリアルさが感じられる。
クラフトビール『それでも町は廻っている』のラベルには国立市谷保にある「ダイヤ街」の情景が描かれている。ダイヤ街はどことなく昭和風情の漂う、人びとの生活感あふれるアーケード街だ。令和の今、温かみの感じられる商店街は案外貴重な存在なのかもしれない。歩鳥の生活する商店街と雰囲気が似ているのではないだろうか。
クラフトビール『それでも町は廻っている』は、フルーティな甘みにホップの苦みの効いた私好みのテイストだ。
ダイヤ街でこのビールを出してくれる飲み屋さんはあるのだろうか。漫画作品『それでも町は廻っている』を読み終えた今、ダイヤ街でこのクラフトビールを飲んだら最高に美味しいだろうなと思う。
女子高生の視点で日常生活を生き生きと描いた物語だが、その終着点がなかなか見えてこないまま、ついに最終話へ。やはりこの人がこの物語の”大ボス”だったか!と読みが的中するも物語の着地点の予想がつかない。ラストは、さすが探偵兼小説家を目指していただけのことはあるな!とニヤリと笑ってしまった。”大ボス”の驚きと喜びと敗北感の入り混じった表情が感慨深い。温かいエンディング。
物語は終わっても、歩鳥と町の住人たちの日常も続いていくのだろう。
それでも町は廻っている……くにたちもね。
みちくさ書店 青木耕史 @books_michikusa
みちくさ書店 番頭。古書店歴24年。町に必要とされる古書店でありたい。本の片付けのご相談承ります。