ALE & BOOKS & CIDER 2025|みちくさ書店 ムラキ

のみもの と よみもの?

醸造家が読書にあうお酒をつくり、秋の夜長を共ににしてもらう。
そんなテーマのもと、奈良醸造の呼びかけで2021年から始まったALE & BOOKS & CIDER。
4年目の今年は7つのブルワリーとサイダリーから商品がリリース。 
読書をしながらお酒を嗜む、素敵な秋をお楽しみください。

KUNITACHI BREWERY からの5冊目は、国立駅そばの古書店「みちくさ書店」のムラキさんからの選書、
「箱根人の箱根案内 新版」、「訪ねてみたい四季の花庭・花畑: 全国花名所紀行」です!

詳しくはこちらのURLから!
ALE & BOOKS & CIDER 2025
https://narabrewing.com/ale-books-cider

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「箱根人の箱根案内 新版」
著者:山口 由美 出版:千早書房

「訪ねてみたい四季の花庭・花畑: 全国花名所紀行」
撮影・文:大貫 茂 出版:婦人生活社

「秘密(ゲハイム)の旅」
しばしば本を持って旅に出る。自分で選ぶというよりもそのタイミングで人から勧められたりプレゼントされたものを携え、キオスクでビールを買って新幹線に乗り込む。

仙台七夕まつり。萩尾望都「11人いる!」

熱海秘宝館での推しコンテンツイベント。川端康成「伊豆の踊子」

ビールに合うか?と聞かれたら、それは人それぞれ…としか答えようがない。11人いる!は数十年ぶりに再読したので「11人いた?!」だったし、伊豆の踊子はノーベル文学賞文豪相手に不敬ではあるが「薄ら気持ち悪」く、違う本を選べば良かったと後悔した。

ああ、なんて酷い読書感想文!

酒を飲みながら本を読むのは憧れるが、私はあまり得意でないようなので1つ旅のお話を。

某市の海沿いにある高級旅館に中年カップルがやってきた。男性は「まさお」女性を「よりこ」としよう。2人は年相応の落ち着きを持ち、某鉄道会社の旅行キャンペーンポスターのようである。

まさおは背が高く痩せ型で物静かな佇まい。

よりこは色白で小柄、可愛らしい印象。

昼は観光を済ませ夕刻この宿にやってきた。露天風呂を楽しみ、旅館の浴衣などに着替え、部屋で寛いでいると夕餉の時間になり、部屋に料理が運ばれた。海沿いの宿ならではの新鮮な海産物が卓に並んだ。

赤貝のぬた、鰤と平目のお造り、鮑の蒸物、焼きズワイガニ…

まさお「ほう!おいしそうだ」

よりこ「こんなにたくさん…!食べきれるかしらフフフ」

2人はビールで乾杯した後は地の酒を酌み交わし、豪華な食事に舌鼓を打った。

「失礼します」食事も中ほどになり、先だって宿に呼んでもらった芸姑がやってきた。

♪チントンシャンテントン

その芸姑は音源こそ録音したものだったが何曲か上手に舞を踊る。

「きれいですね、まさおさん」

「きれいだね…」

「そうそう、平目のお刺身、召し上がりましたか?とても新鮮ですよ」

「蟹の焼き物おいしいよ。食べてごらんなさい」

2人は食事を楽しみながら芸姑の舞を楽しんだ。

「本日はお呼びくださいまして、ありがとうございます」

芸姑は三つ指を付き、この場に呼んでもらった礼を告げ、まさおの盃に酌をした。次によりこの側に座り「さ、奥様も」

さて、本来芸者衆がお座敷に呼ばれると、主催者の側に座りお酌をしたり、周りに気を使ったりするという。ところがこの芸姑のお姐さん、なぜかよりこの隣を陣取り何かと話しかけてくる。

「どちらからいらしたの?」
「東京です」
「まあまあ…遠くからありがとうございます」

他愛の無い会話がしばらく続いたが、芸姑姐さん急に小声になり 

「…貴女もね、東京に戻ったら旦那様とお子様がいらっしゃるのよね?でも、ここではそんな事を忘れてうんと楽しんでいってくださいね…」 

そう言いながら、よりこの背中をさすったり、手を握ったりして励ますような仕草をし始めたのだ。

さて、ここまで読めば懐かしの失楽園かマディソン郡の橋かのようにみえるが、実はこの2人は正真正銘本当の夫婦である。ちなみに子どもは大学生と社会人である。

「え、私は本当の妻ですよ?」

本妻よりこは驚いて返す。しかし芸姑姐さんは首を横に振り

「ここに来る方はみなさんそうおっしゃいますからね…」

ため息をつき、恋愛マスターのように続ける。

「私はね、この仕事長くやってますからね、わかるんですよ」

いやいや、違いますって

「本当のご夫婦は敬語で会話なんてしませんもの」

何度弁解しても中年カップルの不倫旅行にされてしまうので、よりこは面倒になり最後にはもう「そういうこと」にして通したという。

「ええ、主人と子ども達に美味しいおみやげ、買って帰りますね…」

まさおは人前でゲラゲラ笑うタイプではないので、そのやり取りを面白がり、肴にして酒を飲んでいたという。

普通家族旅行で芸姑は呼ばないと思われるかも知れないが、この旅行は当時まさおが所属していた趣味のグループ(団体)の下見旅行を兼ねていた。宴会には芸姑も呼ぶ予定だったという。

高級旅館の中年カップルの「秘密(ゲハイム)」

それは実の夫婦だったということ。40年近く前の私の両親の話である。間もなく90歳になる2人は今なお丁寧な言葉でやりとりしている。

ちなみにおみやげの菓子はとても美味しかった。

みちくさ書店 ムラキ
国立デパートの店舗が広くなりました。とっておきの1冊を探しに来てくださいね!

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