ALE & BOOKS & CIDER 2025|古本泡山 スギタモエル

のみもの と よみもの?

醸造家が読書にあうお酒をつくり、秋の夜長を共ににしてもらう。
そんなテーマのもと、奈良醸造の呼びかけで2021年から始まったALE & BOOKS & CIDER。
4年目の今年は7つのブルワリーとサイダリーから商品がリリース。 
読書をしながらお酒を嗜む、素敵な秋をお楽しみください。

KUNITACHI BREWERY からの4冊目は、国立・国分寺を中心にイベント出店で活動する古本屋
「古本泡山」スギタモエルさんからの選書、「カフカ/夜の時間」です!

詳しくはこちらのURLから!
ALE & BOOKS & CIDER 2025
https://narabrewing.com/ale-books-cider

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『カフカ/夜の時間』 

著者:高橋 悠治 出版:晶文社

ドイツ発祥のビアスタイルの「Geheim」というビールを飲みながらリビングの本棚の前へ。高橋悠治の『カフカ/夜の時間』という本に目が留まる。晶文社の平野甲賀装丁の本はいつだって眩しい。いつでも手に取れる場所にこの本はあるのだけど、すくなくとも1年ほどは開くことはなかったように思う。とくに理由はない。こうしてなにかのきっかけで目の前にあらわれ、通読はせず、拾い読みをくり返すたいせつな本がいくつかある。

カフカはドイツ文学という括りなのだろうか。チェコのプラハのひとだということはぼんやりと知っていた。ドイツ語で創作をしていた。

高橋悠治というひとは作曲家であり、ピアニストである。氏のサティの演奏は繰り返しCDやレコードで聴いた。あっけらかんとしていて愉快な気分になった。

高橋悠治が病院のベッドの上でいろいろなことに思いをめぐらすところから本書ははじまる。氏は病気になる直前、カフカの創作ノートをテクストにした作曲をしていた。カフカのことばと向き合いつつ、からだのこと、ことばのこと、音楽のことをかんがえる。どこか断片的な書き方がとても気持ちいい。

「病院にいると、からだは自分のもちものとはおもえない。からだはだれのものでもない、別な生きもので、それをあずかっているだけの自分がいる。からだのなかには何があるのか、時々耳をすましてみる。かすかな信号でもきこえてはこないだろうか。」

高橋悠治のことばにハッとして意識が変容していく。すこしぬるくなった「Geheim」を口に含むと味が変化していて、新たな味わいにたのしくなってくる。

「ひとことでいい。もとめるだけ。空気のうごきだけ。きみがまだ生きている、待っているというしるしだけ。いや、もとめなくていい。一息だけ。一息もいらない。かまえだけ。かまえもいらない。おもうだけで。おもうこともない。しずかな眠りだけでいい。(カフカ)」

この本を書くことで、カフカとの対話を試みているようだ。その様子が愉しいようでもあり、こわいことのようにも思えてくる。しかし、読書とはこれ以外にはないとも思えてくる。情報や感動を得ることなどどうでもいい。わたしは作者との対話を、死者との対話をしているときこそが本来の読書の歓びだと思えてならない。

「光、真実、存在。それ以上説明できないことば。ことばが語れないことがあると、ことばがまずしいものだと、ことさらに見せつけるためにあるようなことば。」

ことばはことばでしかないということに釘をさす。まいった。書きながら逡巡している様子がわかる。ことばから受け取るものへの疑問。氏は先ず音楽家である。演奏を聴きに行かなければと思う。

かといって高橋悠治のことばは示唆に満ち満ちているのだ。これからの人生、いつまでもわたしはふと思いついてはこの本を読み続けることになるだろう。ビールを飲み続けるようにね。


古本泡山 スギタモエル @awa_yama

国立・国分寺を中心にイベント出店で活動する古本屋「古本泡山」をやっています。
@furuhonawayama

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