ALE & BOOKS KUNITACHI #7
児童文学の金字塔と評される『モモ』ですが、大人にもさまざまな気付きを与えてくれることはよく知られる通りです。不思議な少女モモの視点を通じて描かれるのは、他者と触れ合うよりも効率を重視し、表向きの繁栄とは裏腹に心を失っていく人々。
〈タイパ〉なる言葉が市民権を得た現代日本にぶっ刺さる、時代を超越した経済ファンタジーなのではないでしょうか。
さて、ここからは私の話を少々。図書室に入り浸る本好き小学生だった頃、『モモ』はもちろんお気に入りの一冊でした。
でも、読むたびにどうにもやるせなくなるのが〈時間泥棒〉の存在。行きすぎた資本主義のメタファーとして描かれる、人々から時間を奪い去る灰色スーツの男たちです。怖いとか気持ち悪いとかではありません。やるせなさの理由は、時間泥棒が父親にそっくりだったから。
父は当時でいう熱血サラリーマン。毎日愛用のグレーのスーツで出かけては深夜に帰宅し、週末は接待ゴルフ。自宅でくつろぐ姿を見た記憶は、あまりありません。たまに顔を合わせれば、娘の気を引きたかったのでしょう、私が欲しがるものをあれこれ買い与えては母に呆れられていました(そういうところも、物語の中の時間泥棒そっくり!)。
あんな大人にはなるまい。
そう思っていた私も、社会人になると見事に社畜化。仕事中も休みの日も、一秒も無駄にしたくないとフル稼働していたある日、突然糸が切れるようにすべてのことに興味がなくなり、私は休職しました。休職の理由を聞いてくる人はたくさんいましたが、父は何も聞かなかった。会社を休んで、車で娘を病院に送り迎えする間、聞こうと思えば聞けたのに。
ある日アルバムの整理をしていたら、生まれたばかりの私の写真に、父のメッセージが添えられているのをみつけました。「おおきくなったら、お父さんといっしょにお酒をのんでね」。20数年越しに時間泥棒から届いた、素朴なお願いに心を打たれました。
その後、会社をリタイアして灰色スーツを処分した父は、茶色のジャンパーとスラックス姿で娘と出かけては、にこにことビールを飲む好々爺に転身。数年後に病気で他界するまで、父との幸せな思い出はビールと共にあります。
くにぶるのビールが、「モモ」ではなく「時間泥棒」と名付けられた理由は詳しくは知りません。でも私はとてもうれしかった。愛すべき元・時間泥棒を思い出して。たのしい時間は、記憶として心の中に留めることができます。そしてそれはときにひょっこり現れて、忙殺されそうな私に美しい景色を見せてくれる。
時間泥棒でも社畜でもいいじゃない、我々にはおいしいビールがあるんだから。ときどき乾杯して、人生に彩りを取り戻せばいい。かつての父も同じことを考えていたのかも、とふと思いながら、私は今夜も晩酌するのです。
by末﨑理恵 / Rie Suezaki
せきやアルバイトスタッフ
🍺時間泥棒 / Zeit-Dieben
Raw Fruited Sour Ale
https://kunitachibrewery.com/kuniburu-beer/time-thief/
「ALE & BOOKS」は、読書週間に合わせて、「ビールと読書」をテーマに醸されたビールと本のペアリングを楽しむ企画です。2021年に奈良醸造によりスタートしました。
https://narabrewing.com/ale-books
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