ALE & BOOKS KUNITACHI #1
「そうだ、わかった! 一種の音楽なのよ。いつでもひびいているから、人間がとりたてて聞きもしない音楽。でもあたしは、ときどき聞いていたような気がする。とっても静かな音楽よ。」
時を司る不思議な老人マイスター・ホラに抱かれて黄金の丸天井の部屋を訪れたモモ。天井の中心に空いたまるい穴から注ぐ光の円柱は、まるい池に真っ直ぐに降りています。黒ぐろとした水はなめらかで、まるで黒い鏡のように水面をじっと動かない。水面に注ぐ光の柱の、水面に近いところでは、星のように煌めく振子がおごそかにゆったりと揺れています。咲いては散る、同じものが一つとしてない花。世界そのものが語りかける言語を、モモが音楽として感じ取る場面。
一番好きな場面です。
「とってもしずかな音楽」とは、鳴り止むことのない日常であって、ことさら取り上げられることもないありきたりとも思える日常に、たしかに存在する膨大な非言語的情報だと理解していて、その美しさをみずみずしく表現していると感じました。何気ない代わり映えのない日常、些細な現実と移ろいが語りかけてくる、確かに存在するのに私たちが気にも掛けないことで漏れ落ちている、膨大な非言語的情報。
小さな頃から読書は好きな方でした。好きな作家がいて好きな作品もあります。けれども、どんなに好きで何度も繰り返し読んでも、概要の説明はできても、細部を忠実に再現することができない。意識せずに好きな本の一節を一字一句違えず覚えていて語れる人がいて尊敬しますけど、私はそういうことができない。もちろん部分的に暗記しようとして読み込めば話は変わりますが、それではただの作業になってしまう。
一方で、私の場合、感動が非言語の情報としてどこかに強く深く刻まれます。例えば美味しいビールを飲んだ時、後頭部がびりびりと痺れます。それは抗いようのない感覚で、言葉では上手く言えないけれども自分の中の核に長期記憶として強く刻まれるものがあって、それがなにかの拍子に共鳴して響いてくる。
ビールをデザインするときの新しいアイデアも、そうした非言語の情報、暗黙知が、何かの切っ掛けを得て花開くことに助けられています。モモとペアリングした時間泥棒も、モモを軸に様々なものごとからインスピレーションを受けてつくっています。
ところで、モモにインスピレーションを受けてつくったビールの名前を、あえてモモと対立する概念の時間泥棒にしたのには、もちろん理由があるのですが、空気感的にこの場にはふさわしくないかなと思ったので「時間泥棒は私たちの中にいると思ってるから」ぐらいにとどめておきます。
もし興味があったら長くなることを覚悟して本人に聞いてみてください。
そして、これはささやかな願いですが、私たちのつくるビールが、私たち自身にとっても、そして手に取ってくださる皆さんにとっても時間泥棒たちにただ盗まれる時間を生むようなものではなくて、何気ない日常のしずかな音を私たちの中にいる時間泥棒にさえも届けて穏やかな気持ちにできる、そんなものであれたら嬉しいです。
by 斯波 克幸 / SHIBA Katsuyuki also know as SHIWA
KUNITACHI BREWERY 醸造長
🍺時間泥棒 / Zeit-Dieben
Raw Fruited Sour Ale
https://kunitachibrewery.com/kuniburu-beer/time-thief/
「ALE & BOOKS」は、読書週間に合わせて、「ビールと読書」をテーマに醸されたビールと本のペアリングを楽しむ企画です。2021年に奈良醸造によりスタートしました。
https://narabrewing.com/ale-books
国立駅前のフラッグショップでのくにぶるの取り扱いは、各アカウントにて!
SEKIYA TAP STAND / @sekiya_tap_stand
せきや / @kunitachisekiya
🌟くにぶるオリジナルグラウラーご利用でビール5%OFF
🌟くにぶるのビールイメージを表現したコースターカードをお渡ししています
[くにぶるオンラインショップ]
https://kunitachibrewery.shop
[業務店様のご購入はこちら]
https://shop.kunitachibrewery.com
[くにぶる併設のビアレストラン「麦酒堂KASUGAI」]
https://b-kasugai.com/