半世紀も昔の作品『モモ』の世界でも「タイパ」が求められているという衝撃。
タイムパフォーマンスという10文字程度の言葉を使う時間すら、自ずと「時短」される現代。テーマパークで並ぶ時間もお金で購入可能。いつ何時も「タイパ」が求められる暮らしの私たちにモモが伝えたかったことは何なのか。

『モモ』の世界の人々は、将来の豊かな暮らしを手に入れる為に無駄な時間を倹約する。
より多くの情報を処理して、せかせかとせわしない日々を送り、富を手にいれるが大事な物を失い続けていた。人と対話する時間すら無駄とされ、人々は心をも捨て、何の為に生きているのかさえ見失う。

コロナ渦で不要不急と託けられ、明らかにされた外食産業の非力さ。『モモ』の世界に置き換えると、生きる為に必要がない無駄な時間。

令和のしがないビアバー店主の私としては、生きるのに必要不可欠な「太陽とパン」ではなく、豊かに生きていくのに無くてはならない「月とコーヒー」の方を大切にしたいと常日頃から考えている。
それは言わば、私たちのような「お店」が無くてはならないものだと『モモ』は再確認させてくれた。

現代のデジタル化や効率主義は必要不可欠であり、必ずしも悪いことだけではない。だが、それと対峙して、アナログでゆるやかな時間の流れがとても豊かだという事実も知っている現代人。時代の転換期のいま、この両者が持つ豊かさの本質を知りながら日々を送れたら、と思う。

明日には忘れるような内容の無い話を、美味しいお酒を飲みながら、ついつい時間を忘れながら、素性も分からぬ他者と過ごす。
時間を泥棒してしまうビアバーで、時間を泥棒してくれるビールと。何もないけど、ちゃんとある、豊かな時間を過ごせるような場所を作りたいと改めて。

令和のしがないビアバーの店主に一つキャプションを付けるとすれば、「本が好きな」でした。その本好きが斯波さんと意気投合して始めたコラボビール【文学シリーズ】。来月には6つ目もリリースされます。この機会にぜひ。

by 尾作友里恵 / OSAKU YURIE
東京・原宿のビアバー「SCOO」の店主”オサク”です。日本国内の数多くのブルワリーから厳選した5TAPのビールを飲める、そしてお腹いっぱい食べられる、小さなお店にいます。

🍺時間泥棒 / Zeit-Dieben
Raw Fruited Sour Ale
https://kunitachibrewery.com/kuniburu-beer/time-thief/

「ALE & BOOKS」は、読書週間に合わせて、「ビールと読書」をテーマに醸されたビールと本のペアリングを楽しむ企画です。2021年に奈良醸造によりスタートしました。
https://narabrewing.com/ale-books

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